住職、加藤良光の短歌・平成24年

 

(無題)

新たしき年の始まりそれゆえに新たとならむ君とのことも

米原の白き雪原その中に武人の構へ桜木は立つ

墓参り子の日の松のさ緑を故人に捧ぐ君と二人で

下駄箱の上に置きたる門松の竹の青さよ梅の白さよ

千両のひとつひとつの赤き実の我に向かひてきらと微笑む

芹薺七草粥を食す朝君の笑顔に我も応へむ

一月の滋賀の平野の田畑には麦の早苗の緑色あり

艶やかに椿の青葉光る朝机にありて待つはコーヒー

琵琶湖畔比良の山々雪白し刃先の如き峰の頂き

雪山の姿となれり伊吹山堅き心は表れてこそ

米原の駅に雪舞ふ戸惑ひて我に近寄り水滴となる

木曽川の橋を渡れば養老の山また山に雪の装ひ

この町の朝に雪降り雪積もる稀なることは楽しくもあり

花びらのかたち麗しクロッカス薄き黄色は乙女の心

車窓より二月の伊勢の田畑見る規則正しき畝の連続

鳥羽の海見ゆる旅館に集ひ来て詠唱教司研修をする

雪被る比良の山々色白し黙することは制することか

伊吹山麓の町は冬景色綿敷き置ける田の原の白

忘れむと思ふ心に行き着けり梅の花咲く春を迎へて

来てみれば菜の花畑春日射す今暫くは君と二人で

窓際のスイートピーに笑みをする君の姿は我の慰め

春の日の橙色の金盞花一輪摘みて君に捧げむ

満作の細長き花咲きにけり君が心を掴まむとして

三月の伊吹の山の朝ぼらけ雪の残りと雲の霞みと

春の日の野道を行けば君恋し風の匂ひも鳥の小声も

ぽつぽつと梅の花咲く春となる君を誘ひて匂ひ尋ねむ

公園の桜の木々の花蕾君よ夢見よ宴の明日を

春彼岸塔婆を書けば逝く人と交はせし言葉思い出す哉

黙々とマーガレットの鉢植ゑに水を足しゆく君や愛しき

早咲きの彼岸桜の花開く嬉し楽しと君の小躍り

英虞湾の真珠筏の海に来て露天の風呂に沈む幸せ

伊勢参り若き男女も歩き行く鍵の言葉はバワースポット

今年また白木蓮の花を見る君乗り降りのバス停の横

雪光る四月初めの富士の山弧線の妙に今日も頷く

暴風の春の嵐のただ中を生きているかと我を問ふ君

校庭の桜の下に君を見る生徒の時の淡き思ひ出

故郷の川の上流桜淵名前綺麗と君は喜ぶ

頂きを雲に奪はれ伊吹山四月の初め雪尚残る

咲き始め東京芝の増上寺御忌法要の列に色和す

増上寺三十年の大会は桜吹雪と詠唱の声

鴨川の川端通り桜咲く母子四人の歩み軽やか

蒲公英の黄色が好きと君は言ふ春の公園ブランコの横

今君は赤紫のストックをガラスの瓶に活けて微笑む

満開の染井吉野を仰ぎ見る色の白さに心浮き立つ

桜花吹雪く春の日知恩院三門巡りて音頭奉納

夜深き新幹線の座席には夫の肩に頭載す妻

豊橋の公会堂に集ひ来て八百年の和讃斉唱

散る桜四条の小橋高瀬川流れとともに花びらは行く

知恩院御忌に詠唱奉納す我も一人の舞人となる

小鈴鳴る満天星躑躅白き花四月の雨に色冴へにけり

沿道の躑躅の花の咲くを見て好きと囁く助手席の人

教科書に発布式典写真あり国家憲法呉越同舟

直線の農道行けば右左田植ゑの後の光る水面

麓より緑を統べて伊吹山五月の色もいよよ雄々しき

風薫る五月の滋賀の平野には麦の緑と水面の光

薔薇園の甘き香りに酔ひしれて我に微笑む君ぞ愛しき

元気なき子供の烏塀の上二階屋根より親は見守る

滑空も急旋回も羽ばたきも楽しむでをり六羽の燕

白鷺は早苗を踏まぬ様にして一足ごとを前に押し出す

 


(無題)

我が町の小山の木々の若葉達騒ぐが如く風に波立つ

花びらの色鮮やかに咲いてをり牡丹も好きと君の呼びかけ

路地裏のキャッチボールの子供達我の車の過ぎ行くを待つ

花菖蒲群れ咲く池の細道を歩みてみむと君は誘う

田植えあと滋賀の平野の夕暮れに犬の散歩と夫婦の散歩

姫蛍光の軌跡追って居る夏の小川の貴方と私

友亡くす男三人立ち上がり歌ふは拓郎ともだちの歌

久方の店に入りて懐かしくみゆき「時代」を歌ふこの夜

六月の初日白川蛍川夏は来にけり君は麗し

夏の宵名古屋の駅に向かふ道ツインタワーと対の満月

紫陽花を見ている君の顔がいい我は黙してコーヒーを飲む

六月の曇りの空の伊吹山深き緑は静けさ語る



 

(無題)

梅雨空の滋賀の平野の色淡し霞む町並み曇る山々

夏の夜の雄琴温泉露天風呂語る話は互ひの家族

梅雨の日の朝の琵琶湖の波静か漁の小船の二艘三艘

飯田線林の中の無人駅ホームの端に赤き紫陽花

雨の日の紫陽花小道二人行く青紫の色は誘惑

七月の緑の光伊吹山熱き思ひに我も応へむ

夏風にゆるりゆるりと揺れて居る小百合の如き君ぞ恋しき

合歓の木の薄紅色の花を見る梅雨の晴れ間のランチの後に

地平線その果てまでも向日葵の花咲いて居るイタリア映画

梔子の白き花咲く庭に来て君の語りを聴くも嬉しき

梅雨明けの街の信号青になる日傘の人の強き腕振り

夏の朝叫ぶが如き蝉の声宇宙と名乗る公園の中

慰めは赤の花房百日紅燃ゆるが如き夏のただ中



 

(無題)

西山の總本山の光明寺大阪講の詠歌額あり

小松谷正林寺にて歌唱ふ堂の外では児等の歓声

繁華街新京極の誓願寺阿弥陀大仏詠歌念仏

夏の日の清浄華院参拝す執事の僧と詠唱談義

知恩寺の東大路の新門に大阪講の石柱を見る

くろ谷のお寺金戒光明寺移転石柱夕日に光る

伊勢市駅出でて暫く欣浄寺本堂上は夏の青空

尼崎駅より西へ如来院寺町歩き山門を入る

高砂の駅より歩くその道は十輪寺への鉄道の跡

炎天の光眩しき庭の中凛としてをりペチュニアの花

比叡山バス停降りて青龍寺子供の声を谷川に聞く

登山口郵便配達職員はバイクを降りて膝の屈伸

九十九折り月輪寺の登山道心の中に詠歌聞こゆる

母も来て父も登りしこの道を我も登るか月輪の道

蝉時雨月輪寺の住職と共に唱えし月影の歌

願満ちて月輪寺の道下る俄に響く雷鳴の音

雷雨あり月輪寺の帰り道一歩一歩を心して行く

斉唱す開祖一向上人の詠まれし歌を地元女性と

八月の伊吹の山の構へ良し挑むが如き夏の群雲

誕生寺祈りの姿母の像詠唱人と共に参拝

高松の法然寺にて試食する若者作る讃岐うどんを

善通寺法然堂を参拝す十八名の詠唱人と

瀬戸内の塩飽の島の専称寺祖師の詠まれし歌を奉納

瀬戸内の島より帰る船に乗り接待人の笑顔を思ふ

君恋し青紫の花びらの桔梗一輪テーブルに置く

初めての北海道の旅となる小樽の町の寺に赴く

小樽来て差別戒名物故者の法要に出る秋の一日

小樽駅坂道下り運河館古き写真の青年の顔

アイヌ語のオタタルナイに由来する小樽の町をあてなく歩く

昨夜来て翌日昼も訪れる小樽の寿司屋海鮮ちらし



 

(無題)

北国の博物館の中庭にコスモス咲けり旅の慰め

途中下車札幌の町一時間旧道庁と時計台見る

考古学コロボックルに故あるやポテトの菓子の土産を探す

秋の日の道いっぱいの曼珠沙華我はいつでも君の側なり

竜胆の花束持てる君と会ふ我の望みの二つ叶へり

振り向きて見るは九月の伊吹山緑の色に熟味加はる

羽島駅見れば養老山脈は朝日を受けて厳然とせり

滋賀平野すすきコスモス曼珠沙華秋の野原の色を楽しむ

四日市駅を過ぎれば刈り田あり風にそよげるコスモスの群れ

十月の朝の霞みの伊吹山淡い粧ひ淑女の如く

夜八時四条大橋東詰め蕎麦を食べてるフランス女

秋祇園花見小路の交差点アメリカ人の視線感じる

声高い中国人の会話聞く十月夜の四条の通り

カップルのウォーカー姿ドイツ人秋の祇園の夜を楽しむ

我が甥の結婚式に参列す二十四年の十月二十日

岐阜羽島コスモス畑花盛り披露宴へのバスより眺む

その桃の夭夭たるの詩を思ふ宴の席の新婦の言葉

詠唱の思ひ語らふ夜となる二十四年の教司研修

少しずつ銀杏の葉色変化する君の心は変化しますか

大学の百周年の祝賀会学徒出陣魂魄いずこ

我が父も学徒出陣酒飲めば海軍式の敬礼をする

戦争と殺生戒を議論せず生徒黙して軍事教練

憧れた戦艦大和プラモデル吉田満は出陣学徒

ハロウィンの夜の銀座のうどん店マスク被った背広の男

山形の山々すでに綾錦新幹線の車窓の眺め

天童の温泉ホテル会場に笑顔の人と詠歌唱える

五十回山形教区講習会記念の回に出会う喜び

中津川落合の町高福寺地元の人と詠歌楽しむ



 

(無題)

秋晴れの佳き日晋山弘誓院僧俗集ひ念仏の声

弘誓院五重相伝足揃へ音吐朗々教授師の声

先代の内室今宵百箇日思ひ出偲び阿弥陀経読む

弘誓院五重相伝初日終へ山主挨拶ただただ感謝

第二日朝の勧誡祖師の伝浄土開宗ほとけの願ひ

相伝会第三日の午前には五種正行と三心のこと

三日目の午後は良忠上人の一代を聞く子弟邂逅

岐阜県の柿野温泉お湯熱し若き僧等の休息の時

峠道土地改良の石碑あり長方形の刈田眺むる

第四日煩悩のこと説く誡師愛する故の悪口もあり

勧誡師二河白道の御和讃を歌詞を配りて皆と唱へる

成満の夜の祝宴住職はひとりひとりと破顔談笑

常緑の木々の緑のあるを見て紅葉の色の赤に驚く

松の木と太き銀杏の囲ひあり昔兵舎のあとの高校



 

(無題)

詠唱の三河大会幸田町曲を奉納もろ人笑顔

鳥羽の海見下ろす丘の宿に来て二時間通しの講演を聞く

雪被る十一月の伊吹山腰の辺りは秋色の妙

浜松の葬斎場に集い来て光明摂取和讃唱える

埼玉の本庄市内円心寺言葉を説いて詠歌唱える

夕映えに光る白雪富士の山麓の色よ清浄となれ

生け垣の満天星躑躅紅葉色師走朔日命日の家

十二月三河安城駅の外稗田の列に夕陽差し込む

十二月滋賀の平野の田畑には枯れ草色と麦の草色

伊吹山雪雲懸かる十二月魔神のような構えの姿

雪の朝窓の外にはエンジェルが舞い飛んでいるあちらこちらと

冬空に欅の樹形現れる春は必ず来ると信じて