住職、加藤良光の短歌・平成23年

 

平成23年

新しき年の初めにまた祈る夢追ひ人よ御幸多かれ

 


映画「最後の忠臣蔵」を見て

輿入れの松明増ゆるシーンあり恩を感じて列に加はる

空澄みて滋賀の家々雪被る成人式の次の日の朝

白銀の世界となりぬ関ヶ原車の屋根も杉の木立も



 

1月25日法然上人正当忌日の朝

雪の朝源智上人発願の阿弥陀如来は現にまします

一月の最後の夜の祗園町皆と食べるは鍋焼きうどん



 

(無題)

何もせずそっと見守れ大人達こころ純粋少女の涙

実も無き言葉なれども口惜しき抑へ難くて涙溢るる

雨となる二月末の日鴨川に花柄色の傘の数々

詠唱の六十年を祝ひする祖山の今日は雪風の中

ラジオより放射能漏れニュース聞く二十三年三月のこと

映像に残ることなき津波あり一万人の行方不明者

山あいの小さき駅の片隅に今を盛りと紅き梅咲く

鴨川の枝垂れ桜の枝先に堅き蕾の数多ある見る

春休み名古屋の駅のコンコース男女六人歩み軽やか

三月の三十一日知恩院犠牲者回向ただに念仏

五メートル距離を取り置けゴッホの絵二十三年四月の名古屋

ゴッホ展展示の部屋の奥の方憧れて見る彼の自画像

フィンセントファンゴッホ描く絵一枚農夫の妻の哀しき瞳

山々の桜の赤芽力あり間近に迫る華やぎの時

校門の桜の花は七分咲き入学式の白き立て札

田園の水路に沿ひて桜咲くきらきら光る水の輝き

校庭の桜花びら散る中にリトルリーグの少年の声

我が胸を細き腕にて押し出す相撲遊びの大野上人

詠唱の講習会に参加せる大野上人今宵は通夜か

満開の桜公園その先に朝日に映ゆる富士の白雪

散り残る桜の花を仰ぎ見て今年の春の無常を思ふ

新学期自転車乗りて道行けば植田の匂ひ水の輝き

混み合へる法然展の中に居て隣人二人感嘆の声

八重桜蓮華王院中庭の法然塔の石碑拝みぬ

宇治川の橋を渡りて進み行く平等院は藤の盛り日

雲薄く裾野の原を覆ふなり富士の高嶺は清廉の白

きらきらと若葉の光る増上寺詠唱講司検定の朝

颯々と白雲走る関ヶ原鎮むる山の色は黛



 

(無題)

切符落つまだ間に合ふと追い掛けて重心崩し遂に転倒

背負ひ投げ技掛けられて飛ぶ如く今宵京都の駅の中飛ぶ

紅色と黄色斑の薔薇の花三人家族食卓の上

夏キャベツ収穫の朝農道に若き夫婦の箱詰めの様

六月の三河の山よ緑良し木々の繁りに勢ひを見る

長良川ほとりのホテル僧集ふ一茶の俳句に仏説を読む

やれ打つな蠅の命のいかばかり我も汝も仮和合の一

噛むことは嬉し楽しきことなりき大根サラダ梅肉の味

夏至の日の東京芝の増上寺汗をのごひて詠歌唱へぬ

六月の群青色の富士の山一筋残る残雪の白

ゆっくりとコーヒーミルを動かせば豆挽く音に心安らぐ

白川のほとりの柳窓の外やまもと喫茶夏の装ひ

夏の日の凌霄花君と見る色橙の花の数々

風景を素直に詠めぬ心地なり放射物質飛散の国土

この国に哲学あるかソクラテス我等無学の毒を飲まさる

七月の伊勢の稲田に風吹けば実り初めの穂穂の揺らめき

原子力危うきものと思はざる我が言動は瑕瑾ばかりぞv

棚経の後のお店のモーニング向かひ合わせにパンを頂く

参道の右も左も背の高き向日葵の花我を見下ろす

鶏頭の色鮮やかに咲き光る君は何故我を惑はす

赤房も白房もあり百日紅ゆらりゆらりと風に漂ふ

岡山の駅より電車津山線山深緑川は涼やか

ジェイアール駅の名前も誕生寺地元の人の後に降り立つv

誕生寺本堂軒の詠歌額大阪講の熱意表す

椋の木の梢の下に佇みて祖師の生地の今を感ずる

高松の祖師の霊場法然寺本堂入りて御影を拝す

本堂の軒の上には詠歌額万葉がなを読みて詠唱

瀬戸内の海の青さよ室の津の浄運寺にて船を眺むる

勝尾寺の石段上がり坂登る二階堂には蝉時雨あり

天王寺念仏堂は絶へて無し阿弥陀堂にて御影を拝す

霊場の第七番は一心寺石柱施主は中興の僧

大川の報恩講寺参り行く大阪講の標石もあり

当麻寺駅より出て道進む祖師の御影を拝するために

新旧の詠歌額あり法然寺飛鳥の里の田園の中

小雨降る夏の終わりの東大寺寺務所に入りて朱印頂く

残暑あり嵯峨嵐山駅降りて二尊院まで足を運びぬ

二尊院詠歌の額の下に立ち両手を合はせひとり奉納

ひとり行く夏の嵯峨野の竹林に涼風渡りしばし癒さる

嵐山線路近くの法然寺額を見上げて詠歌を唱ふ

一面の緑の稲田滋賀平野夏の日差しにいよよ輝く

竜胆の薄紫の花蕾君は小窓の瓶に投げ入る

朝真白ゆうべピンクの酔芙蓉九月生まれの君と眺めむ

知恩院八百年の大遠忌詠唱の会霊場を説く

そのひとつ秋の七草藤袴紫色は躊躇ひの色

我が恋も儚しと言ふや女郎花秋の夕べの鴨川の岸

花の名は紫式部白式部可憐と言ふを君に与へむ

十月の川端通り秋の色銀杏黄緑桜は茜

床の間に青磁の花瓶吾亦紅君に尋ねて花の名を知る

花の名も宇宙を言ふもコスモスや語源はギリシャ整然の美よ

v中学の修学旅行それ以来四十年の羽田空港



 

山形県湯野浜温泉に行き詠唱講習会の講師を勤めて詠める歌一首

荒海の波の音聞く湯野浜に詠唱人と時を共にす

初めてのところ庄内空港のデッキに立ちて黄昏を見る

君乗せて秋の野原を走り行く夕陽に光る群れの薄穂

夕暮れに秋の蒲公英綿毛玉静かにすうと君は吹き行く

桜葉の紅葉となりし秋の日の北野を歩む昔ありけり

晩秋の陽射しを受けて伊吹山孤高なれども凛としてをり

秋更けて薄紫の色の花皇帝ダリア我を見下ろす



 

(無題)

落葉の木肌の白さ百日紅君の言葉に我も振り向く

一面のコスモス畑君と行く時の流れを今に留めむ

我を産む五十七年前の母夢の中にてしばし語らむ

冬浅き銀杏落ち葉の道歩く黄色綺麗と君の呼びかけ

福岡の小倉の駅に佇みて今日の葬儀の故人を思ふ

寳典寺吉水光慈上人の声は朗々言は鋭俊

久々に学生寮の先輩と言葉を交はす焼香の後

プラタナス枯れ葉となりて吹かれ行く冬は好きかと君の問ひかけ

旅の宿鳥羽の岬の夜明け前西にかたぶくオリオンを見る

山茶花の赤き花咲く冬の道君は笑まひて我の手を取る

子を載せてペダル漕ぎ行く若き母並木の道の紅葉指差す

雲晴れて冬の校庭暖かし袴姿の弓張りの人

野洲川を過ぎればそこは雪景色冬の初めの滋賀の家々



 

(無題)

修行僧満行の日の知恩院御影堂にて我が弟子を見る

平成の二十三年歳の暮祖師の御影は集会堂に入る

風寒き二十三年歳の暮悔恨慚愧己の姿

平成の二十四年の元旦も愚者に還りてただに念仏

極楽の荘厳仰ぐこの朝はひとりひとりの幸よ多かれ

新年を寿ぎてなほ皆人に幸ひあれと唱歌ふ念仏