住職、加藤良光の短歌・平成21年

 

(無題)

高校の同級会に人集ふ柔道部員ラグビー部員

念仏の教え否定の言葉あり映画の中の道元禅師

一月の米原駅を過ぎてより白雪積もる家並みを見る

日の出前薄雪懸かる東山祖師の遺跡知恩院もまた

白銀の滋賀の平野の一隅に労る如き墓石の群れ

増上寺朝粥会の席に着く漆の匙と舌の感触

朝早き新幹線の中に居て思ひ起こすか修学旅行

トランプを始めつつあり同席者旅行といふは不思議空間v

歩兵第十八連隊豊橋は衛兵ポスト今もそのまま

自由主義共産主義の国家あり教師の顔に強き信念

今日の日は名号軸の親授式吉水講の新たな歴史

授かりし名号軸を抱きかかへ夜の電車の席を動かず

明日のため指揮の練習熱入る勢い過ぎてスイッチ飛ばす

 


知恩院吉水講六十周年記念名号軸親授式の翌日自坊本堂に軸を掛けて詠める歌一首

ソルジャーブルーポスターを気にかけし少年の我真実を知る

インディアン騎兵の軍に囲まれて血と土と神奪はれて逝く

印象の絵画の如き夕陽見る大寒前の電車の中に

増上寺朝粥会の講演に納棺日記作者の思ひ

案内記作者霊沢上人の和讃考へ思ひを馳せる

六道の阿修羅哀しきその故を解せざる者像を見に行く



 

知恩院吉水講六十周年記念名号軸親授式の翌日自坊本堂に軸を掛けて詠める歌一首

月かげの詠歌唱へて頂きし名号軸は我が寺にあり

今日の日は眞泉さんの誕生日京の京屋で皆と喜ぶ

お祝ひのフルーツケーキ手に持ちて親しき人の心受け取る

我が寺を過ぎにし軸にまた会へり朱印の数はすでに十七

東海の普及委員の集まりて互ひを磨く舞の稽古に

教科書の自由民権挿し絵あり二千九年の国策捜査

ニュースでは東京地検特捜部不正献金小沢一郎

三月の曇りの空の滋賀の町会社看板原色の文字

春来たり賀茂の河原の柳には今年の若葉吹き出でにけり

春浅き伊賀の神戸の田の色は代掻き待てる清新の黒

小沢一郎続投の会見を国の大事と誰か気付かむ

スキャンダル弓削の道鏡潰さるる清き行状高き道心

大学の入学式に付き添へる親の身となる今日の重たさ

焙煎の珈琲店の席に着き常の如くに時を楽しむ

保護者への説明会を聞き終へて後ろを見れば友の顔あり

桜花匂ふ東京増上寺詠唱人と集ふは楽し

この年の初めて見たる代掻きは四月半ばの日曜の午後

木曽川も揖斐も長良も水光る今年の米の味はひ良かれ

春祝ふ仲間来たりて声楽しこの三年のロマン思へば

三門を巡り巡りて音頭舞ふ御忌奉納の心満たして

清冽の作家立原正秋の人生論を読み直す夜

その昔阪急電車河原町人を思ひてホームに立てり

子供の日滋賀の平野の水田には田植え機使ふ家長の姿

茶畑と早苗田光るこの五月駿河の国の人は幸ひ

静岡の駅のホームの顔見ればマスク四割意識の危険

薄曇輪郭のみの富士の峰人差し指は線に従ふ

詠唱の指導者目指す人たちと増上寺にて縁を結べり

女子二人運動場に座り込み写生の為に校舎を眺む

豊橋は思い豊かな橋の町住む人々の心行き交ふ

田園にエレベーターの工場あり滋賀の米原今の日本

早苗田と麦の畑と高圧の電線見ゆる滋賀の六月

五階建て滋賀の大津のマンションの屋根の形は寄せ棟造り

紫陽花の道を進みて君に逢ふ雨雨雨の京都の夜に

梅雨空の伊良湖岬を訪ぬれば発電風車翼回れり

半島の山に風力発電の風車並べり三本の翼

ハンドルを左に切れば渥美湾海の広さを確かめにけり

赤白の色のフレエムクレエンの休めの角は百六十五

水清き伏見の町の西楽寺集ふ我等は信心の友

水田の隣の麦の畑には刈穂焼きたる黒き跡あり

六月の二十二日の御廟にて選択集を拝して読めり

雨の中岐阜の羽島の水田は粒に踊りて力を得たり

全国の教区の長の会議にて八百年の和讃唱へり

ささやかな願ひごとあり星祭り思ひの人の微笑みの顔

夏休み少年達の知恩院南無阿弥陀仏の声の勢ひ

知恩院三門辺り蝉時雨清々しきは心中にあり

待ち焦がれ瑠璃紺色の夏の空幼き頃の記憶のままに

バイク乗り稲田の道を駆け行けば若き雀の並び飛ぶ見ゆ

豊橋の牟呂の市場の盆踊り青年団はやぐらを作る

新しく額に残る傷痕は父と娘の距離の証明

彼岸前秋の小雨の知恩院訪なふ人の傘の揺らめき

蟻のごと無言に歩む我となる迷路迷路の名古屋地下鉄

初めての愛知県庁廊下行く寺院解散書類抱えて

長良川鉄橋渡る車中にて八月十五満月を見る

投票の当事者となる宗議会行動心理分析は不可

十月の風無き朝の知恩院微かに変わる木々の葉の色

新しき舞発表の知恩院遠忌和讃の声は高まる

仰ぐ手はそのまま拝む手となりぬ遠忌和讃の舞の姿は

鴨川の辺の木々に秋は来ぬ並び歩きし人の思ひ出

初物の河豚の握りを口にして笑みたる君を我如何にせむ

バス乗りて集ふ大垣市民館詠唱人の声の高まり

その昔岡井隆の教室に通ふ我あり豊橋の夜

洛北の百万遍の知恩寺に指導者集ひ舞を頂く

秋晴れの三河の刈谷誓満寺遠忌法要念仏の声